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大阪地方裁判所 昭和60年(ワ)6836号 判決 1988年1月28日

原告

フジパン株式会社

ほか一名

被告

平岡みどり

主文

原告らの被告に対する別紙目録記載の交通事故に基づく各金五〇五四万八〇五八円の損害賠償債務がいずれも存在しないことを確認する。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第一当事者の求める裁判

一  請求の趣旨

主文と同旨

二  請求の趣旨に対する答弁

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

第二当事者の主張

一  請求の原因

被告は原告らに対し、別紙目録記載の交通事故(以下「本件事故」という。)に基づく各金五〇五四万八〇五八円の損害賠償債権を有するものと主張する。

しかし、原告らの被告に対する右の各損害賠償債務はいずれも存在しないので、原告らはそれぞれ被告に対し、右債務の存在しないことの確認を求める。

二  請求の原因に対する認否

被告が原告らに対し、原告らが主張するような権利主張をしていることは認める。

三  抗弁

1  事故の発生

原告ら主張の本件交通事故が発生した。

2  責任

原告山本は、前記道路に山本車を停止させるに当たり、右道路は、幅員六・五メートルの片側二車線の駐車禁止の道路規制がなされた道路で、当時道路左(南)側には駐車車両が連らなつていて車両等の走行できる道路の幅員が狭くなつており、本件事故現場付近は市街地で車両等の交通量も多いうえ、山本車の幅員は一・八七メートルあつたのであるから、右道路に山本車を二重に駐車することは避け、右道路を西進してくる車両等との衝突を未然に防止すべき注意義務があつたものである。しかるに、原告山本は、積荷上げ下しの目的で自車を右道路の右駐車車両の右(北)側に右側車線まではみ出す状態で二重に駐車させた過失により本件事故を発生させたものであるから、民法七〇九条に基づき、被告が本件事故により被つた後記損害を賠償する責任がある。

また、原告フジパン株式会社(以下「原告会社」という。)は、本件事故当時山本車を所有し、これを自己のために運行の用に供していたものであるから、自動車損害賠償保障法(以下「自賠法」という。)三条に基づき、被告が本件事故により被つた後記損害を賠償する責任がある。

3  被告の受傷、治療経過、後遺障害

被告は、本件事故により鼻骨開放骨折、頭部外傷Ⅱ型の傷害を受け、昭和六〇年六月八日から同年七月四日まで(二七日間)北大阪病院に入院し、同月一日から三日まで(実日数二日)さわ病院に通院し、同月四日から同年九月一七日まで(七六日間)同病院に入院し、同月一八日から昭和六一年四月九日まで(実日数一二日)同病院に通院し、同日から同月二一日まで(一三日間)同病院に入院し、同月二二日から同年六月一八日まで(実日数五日)淀川キリスト教病院に通院して治療を受け、その後も同病院及び藍野病院に通院して治療を受けている。被告の症状は、顔面に一センチメートル×〇・六センチメートルの変色と鼻部から外鼻孔にかけて六・一センチメートルの縫合創のある醜状変形を残存させて昭和六〇年七月四日症状固定となり、また、独語、空笑、異常行動、無為、自閉等の精神異常を残存させて昭和六一年四月九日症状固定となつた。被告の右後遺障害中、前者は、自動車損害賠償保障法施行令二条別表後遺障害別等級表(以下「等級表」という。)第七級一二号(「女子の外貌に著しい醜状を残すもの」)に、後者は、等級表第三級三号(「神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、随時介護を要するもの」)にそれぞれ該当し、これを併合すると、等級表の第一級に相当する。

4  損害

(一) 治療費 金六一万二三四四円

被告は、昭和六一年四月九日の症状固定までの前記病院に対する治療費として、金六一万二三四四円を要した。

(二) 入院雑費 金一〇万三〇〇〇円

被告は、前記症状固定までの一〇三日の入院期間中、一日当たり金一〇〇〇円、合計一〇万三〇〇〇円の雑費を支出した。

(三) 休業損害 金一一八万〇三五〇円

被告は、本件事故当時一六歳の女子で、喫茶店の従業員として勤務し、収入を得ていた。したがつて、被告は、本件事故に遭わなければ、賃金センサスによる一八歳の女子労働者の平均賃金である月額一一万六一〇〇円を下回らない収入を得られたものというべきところ、本件事故による受傷のため、本件事故の日から昭和六一年四月九日までの三〇五日間休業せざるを得ず、合計一一八万〇三五〇円の得べかりし利益を得られなかつた。

(四) 後遺障害による逸失利益 金三四八〇万七七〇八円

被告の後遺障害の内容、程度は前記のとおりであるから、これによる労働能力喪失率は一〇〇パーセント、労働能力喪失期間は症状固定ののち就労可能な六七歳までの五一年間である。そして、本件事故当時の被告の収入は前記のとおりであるから、右の間に被告が失うことになる収入総額からホフマン式計算法により年五分の割合による中間利息を控除して後遺障害による逸失利益の症状固定時における現価を求めると、次の計算式のとおり、金三四八〇万七七〇八円となる。

116,100×12×24.984=34,807,708

(五) 慰謝料

被告が本件事故により被つた精神的・肉体的苦痛を慰謝するに足りる慰謝料の額は、通院の期間に応じて算出した金一一〇万円と、後遺障害の程度に応じて算出した金二〇〇〇万円の合計額である金二一一〇万円である。

5  損害の填補

被告は、山本車の自動車損害賠償責任保険から金七六〇万三〇〇〇円の保険金の支払を受けた。

6  結論

よつて、被告は原告らに対し、4(一)ないし(五)の合計額から5の既払額を控除した各金五〇五四万八〇五八円の本件事故に基づく損害賠償債権を有するものである。

四  抗弁に対する認否

1  抗弁1の事実は認める。

2  同2の事実中、本件事故現場付近の道路が幅員六・五メートルの片側二車線の駐車禁止の道路規制がなされた道路であること、原告山本が道路左(南)側に停止していた車両の右(北)側に二重に自車を停止させたこと、原告会社が本件事故当時山本車を所有し、これを自己のために運行の用に供していたものであることは認めるが、その余の事実は否認する。原告山本は、自車を駐車させていたのではなく納品のため停車させておいたものにすぎず、本件事故は、被告の一方的過失によつて発生したものである。すなわち、被告は、自車の前部足元に大きなシートカバーを折りたたんでこれが自己の首付近までくる状態にして立てかけ、これを両肘で押さえるようにして自車を走行させていたところ、右シートカバーが折からの強風にあおられて被告の視界を遮り、そのため前方注視が不十分になつて本件事故を発生させたものである。

3  同3の事実中、被告が本件事故によりその主張のような傷害を受けたこと、被告がその主張のように二七日間北大阪病院に入院して治療を受けたことは認めるが、本件事故により被告主張のような精神異常が生じたことは否認し、その余の事実は知らない。

4  同4の事実中、被告が右北大阪病院への入院中一日当たり金一〇〇〇円の雑費を支出したこと、被告に昭和六〇年六月八日から同年七月四日までの間その主張のような休業損害が生じたことは認めるが、それ以降の損害の発生は否認し、その余の事実は知らない。

5  同5の事実は認める。

五  再抗弁

1  原告会社(免責)

本件事故は、抗弁に対する認否2において述べたように被告の一方的過失によつて発生したもので、原告らとしては、見通しのよい道路をブレーキもかけずに停止している山本車の後部ほぼ中央に真正面から一直線に追突してくる車両のあることまで予見することは不可能で、原告らに過失はなく、当時山本車に構造上の欠陥や機能障害もなかつた。したがつて、原告会社は、本件事故による損害賠償責任を免れる。

2  原告ら(過失相殺)

仮に原告らに損害賠償責任があるとしても、本件事故の発生については、前記のように被告に「運転者の視野若しくはハンドルその他の装置の操作を妨げるような積載」をしたという積載方法違反(道路交通法五五条二項)の過失があり、被告の損害額の算定に当たつては、被告の右過失を斟酌し、相当額の減額がなされるべきである。

六  再抗弁に対する認否

否認する。

第三証拠

本件記録中の書証及び証人等目録記載のとおりであるからこれを引用する。

理由

一  被告の権利主張

被告が原告らに対し、本件事故に基づく各金五〇五四万八〇五八円の損害賠償債権を有するものと主張していることは当事者間に争いがない。

二  そこで、抗弁事実につき判断する。

1  事故の発生

抗弁1の事実は当事者間に争いがない。

2  責任

成立に争いのない甲第一ないし第三号証、証人前原資邦の証言、被告主張どおりの写真であることに争いのない検乙第一ないし第一三、第一九、第二〇号証によれば、本件事故の発生した本件道路は、幅員六・五メートルの片側二車線の駐車禁止の道路規制がなされた道路で(この事実は当事者間に争いがない。)、当時道路左(南)側には駐車車両が連らなつていて車両等の走行できる道路の幅員が狭くなつていたこと、本件事故現場付近は市街地で、当時の車両等の交通量は、普通の状態であつたこと、山本車の幅員は一・八七メートルであつたことが認められる。右の事実によれば、右駐車車両の右(北)側に車両を二重に駐停車したならば、車両等の走行できる道路の幅員を著しく狭め、右道路を西進してくる車両等との衝突事故の発生することが十分予見できたものというべきであり、原告は、右のような二重駐停車を避け、右道路を西進してくる車両等との衝突を未然に防止すべき注意義務があつたものというべきである。しかるに、右の各証拠によれば、原告山本は、積荷を道路左(南)側の店舗に運び、店内で作業をする目的で自車を右道路の駐車車両の右(北)側に右側車線まではみ出す状態で二重に停止させ(原告山本が道路左側に停止していた車両の右側に自車を二重に停止させたことは当事者間に争いがない。)、右店舗内で作業中に本件事故を発生させたことが認められる。したがつて、同原告は、民法七〇九条に基づき、被告が本件事故により被つた損害を賠償する責任がある。

また、原告会社が本件事故当時山本車を所有し、これを自己のために運行の用に供していたことは当事者間に争いがない。そして、本件事故の発生について、原告山本に過失のあつたことは右に認定したとおりであるから、被告会社には自賠法三条但書の免責事由はなく、被告会社は、同条本文に基づき、被告が本件事故により被つた損害を賠償する責任がある。

3  被告の受傷、治療経過、後遺障害

被告が本件事故により鼻骨開放骨折、頭部外傷Ⅱ型の傷害を受け、昭和六〇年六月八日から同年七月四日まで(二七日間)北大阪病院に入院して治療を受けたことは当事者間に争いがなく、原本の存在及び成立に争いのない乙第五号証によれば、被告は、昭和六〇年七月四日、その顔面に一センチメートル×〇・六センチメートルの変色と鼻部から外鼻孔にかけて六・一センチメートルの縫合創のある醜状変形を残存させてその症状が固定したことが認められる。そうすると、被告の右後遺障害は、等級表第七級一二号(「女子の外貌に著しい醜状を残すもの」)に該当するものと認めるのが相当である。

被告は、本件事故による自己の精神異常の症状がその後も継続し、前記のとおり病院に入通院して治療を受けたが、完治せず、独語、空笑、異常行動、無為、自閉等の精神異常を残存させて昭和六一年四月九日症状固定となつた旨主張し、前掲乙第二号証、成立に争いのない甲第五号証、乙第一四号証、原本の存在及び成立に争いのない同第六ないし第一〇号証、第一一ないし第一三号証の各一、二、第一五号証によれば、被告は、昭和六〇年七月四日、北大阪病院入院中にみられた精神状態の変化のため、さわ病院(神経科)に転医し、以後被告が主張するように各病院に入通院して精神異常についての治療を受けたこと、この間の被告のさわ病院における診断傷病名は頭部外傷後遺症で、被告主張のような諸症状が見られたことが認められ、成立に争いのない乙第一六号証の一、二によれば、右さわ病院の主治医である板橋英典は、弁護士法二三条の二に基づく照会に対し、被告の右症状は本件事故と因果関係があると確信している旨回答していることが認められる。しかし、被告の右精神異常が本件事故に基づくものであるとするさわ病院の診断は、そのように診断した根拠が必ずしも明確でないうえ、前掲乙第一二号証の一によれば、被告には、入院先のさわ病院の規則に全く従わないで強制退院させられた病状以前の異常性格のあつたことが認められ、この事実によれば、被告の精神異常の症状がその資質に由来する可能性を否定することができず、前記認定の事実から本件事故と被告の精神異常との間に因果関係があるものと認めるには足りないものといわざるを得ず、他にこれを認めるに足るだけの証拠は存在しない。したがつて、被告の北大阪病院以外の病院においてみられた精神異常の症状及び治療は、本件事故と因果関係がないものというべきである。

4  損害

(一)  治療費

前掲乙第三号証の一、二及び第四号証の一、二によれば、被告は、前記症状固定までの北大阪病院に対する治療費として、金二九万〇〇六九円の債務を負担したことが認められる。

(二)  入院雑費

被告が北大阪病院に入院した二七日間、一日当たり金一〇〇〇円の雑費を支出したことは当事者間に争いがないので、その合計額は金二万七〇〇〇円となる。

(三)  休業損害

被告に昭和六〇年六月八日から同年七月四日までの間月間一一万六一〇〇円(一日当り金三八七〇円)の休業損害が生じたことは当事者間に争いがないので、右の間の休業損害の合計額は金一〇万四四九〇円となる。

(四)  後遺障害による逸失利益

本件事故により被告に生じた後遺障害が顔面の醜状変形だけであることは前記のとおりであるところ、右の後遺障害は、被告の年齢及び職業の不安定性に照らせば、いまだその労働能力に影響を及ぼすものとまでは認められず、慰謝料斟酌事由として考慮するのが相当である。

(五)  慰謝料

本件事故により被告が受けた傷害の内容・程度その他本件において認められる諸般の事情に照らせば、被告が本件事故によつて被つた精神的、肉体的苦痛を慰謝するに足る慰謝料の額は、金一〇〇〇万円と認めるのが相当である。

三  過失相殺

前掲甲第一ないし第三号証、弁論の全趣旨により被告主張どおりの写真であると認められる検乙第一四ないし第一八号証及び証人前原資邦の証言によれば、被告は、本件事故当時、自車(スクーター)の前部足元に大きなシートカバーを折りたたんでこれが自己の首付近までくる状態にして立てかけ、これを両肘で押さえるようにして自車を時速約四〇キロメートルの速度で走行させていたこと、右のシートカバーは折からの風にあおられてはためいていたこと、当時原告車と山本車との間に原告の視界を遮るようなものはなかつたのに、原告車は、ハンドルを左右に切ることも減速することもなく、停止していた山本車の後部ほぼ中央に真正面から一直線に追突したものであることが認められ、これを覆すに足りる証拠は存在しない。してみれば、被告は、自己の視野若しくはハンドルその他の装置の操作を妨げるような状態でシートカバーを積載し、これがため前方注視が不十分になつて本件事故を発生させたものと推認するのが相当である。したがつて、本件事故の発生については被告にも過失があり、その過失割合は、八割を下るものではないと認められ、前項記載の損害額に八割の過失相殺減額をすると、被告の損害額は、合計二〇八万四三一二円となる。

四  損害の填補

抗弁5の事実は当事者間に争いがないので、被告の原告らに対する本件事故に基づく損害賠償債権は、すべて填補されてもはや存在しないことが明らかである。

五  結論

以上の次第で、原告らの本訴各請求は、いずれも理由があるのでこれを認容することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 山下満)

(別紙) 目録

原告山本一男は、昭和六〇年六月八日午後一時三七分ころ、自己が運転する普通貨物自動車(大阪一一と四八八号、以下「山本車」という。)を大阪市淀川区宮原四丁目四番先路上に停止させておいたところ、その後部に右道路を西進してきた被告運転の原動機付自転車(大阪市淀う七二―〇七号、以下「被告車」という。)の前部が衝突した。

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